2024.9.30
前回と前々回の2回にわたって解雇補償金について解説しました。
今回は、休暇のなかでも東南アジアに多くみられる制度である「病気休暇(傷病休暇)」について取り上げます。
病気による休暇は日本では法律により認められていません。本人と企業間の取り決めに任せられていて、欠勤扱いとなるか本人の希望で有給休暇扱いになるのが一般的です。
一方、タイの労働者保護法では、病気休暇は法定休暇として定められています。
まずは休暇の内容について整理し、起こりがちなトラブルについても押さえていきましょう。
病気休暇ってどんな休暇なの?
まず押さえておきたいのが、病気休暇は「法定休暇」であるという点です。法定休暇とは労働者保護法に定められている休暇のことで、病気休暇を含めて7つあり、原則は有給の休暇となっています。病気休暇とはどんな休暇なのか、具体的に内容を確認していきましょう。
病気休暇(傷病休暇)とは、病気が原因で通常通り勤務ができない場合のための休暇のことで、年間30日は有給としなければなりません。企業によっては30日以上の取得を認めているケースもありますが、30日を超える日数については無給としても問題ありません。
連続で3日以上病気休暇を取得する場合には、医師による診断書を提出させることができます。
病気休暇も有給の休暇のため、年次有給休暇との区別が難しいとのお声もよく耳にします。区別のポイントは2点です。
- 年次有給休暇は取得の理由を問わない(問えない)が、
病気休暇は取得理由を制限できる - 年次有給休暇は未消化の場合原則買取りの義務があるが、
病気休暇は有給分を使い切っていないとしても買取り義務なし
年次有給休暇の買取りについては以前、こちらの記事にて取り上げていますのであわせてご参照ください。
2024年7月8日更新:日本にはない年次有給休暇の買取り制度、きちんと理解しましょう!
休暇に関するトラブルって具体的には?
タイの休暇に関するトラブルで多いのが、病気休暇の制度を濫用する従業員への対応です。病気休暇は年間で最大30日取得可能で、なおかつ有給の休暇のため、「年次有給休暇と合わせて年に36日も休める!」と考えてしまう従業員が一定数存在します。
病気休暇の性質上、年次有給休暇のように事前に休暇を把握しておくことが難しいため、当日急に、しかも頻繁に病気休暇を取得する従業員がいると業務全体に影響が出てしまうこともあるでしょう。
先ほども触れましたが、連続して3日以上休む場合にしか医師の診断書を提出させることができないことになっています。そのため、2日までであれば診断書がないことを理由として病気休暇の申請を棄却することはできませんし、規定内であれば病気休暇を頻繁に取得する従業員を処罰することもできません。
病気休暇の濫用を防ぐことはできないの?
それでは病気休暇を濫用する従業員へは何も対処することはできないのか?というとそうではありません。
病気休暇の濫用を抑制する手立てとして有効な方法を2つご紹介します。
1つ目は、2日以内の病気休暇の場合に、薬局等で薬を購入した履歴の提出を必須とすることです。
法律では2日以内の休暇であれば診断書を提出させることができません。ですので病気休暇の申請があった場合、果たして本当に病気の休暇なのか、または虚偽の休暇なのか判断に迷うこともあるかと思います。
あらかじめ就業規則等で2日以内の病気休暇の場合は薬購入の履歴を提出させることを明記しておくことで休暇の濫用を防ぐことができるというわけです。
仮にルール(就業規則や雇用契約書等)がなければ、2日以内の休暇は本人に内容を確認することなく、すべて認めなければならないこととなります。つまり、頻繁に取得しても会社側が病気ではないと立証しなければ懲戒処分が困難となるのです。
2つ目は休まず出勤することがインセンティブとなるような制度を取り入れることです。
例えば皆勤手当を支給する、昇給や昇格、賞与で差をつけるなどが一般的です。日本の労働法規に照らし合わせると、法的休暇を取得したからといって、手当を削除すること、昇給や昇格、賞与で差を設けることは不利益変更という色が濃くなります。しかしタイの労働判例を見る限り、この内容について合理性があると判断されているところが大きく異なる点です。
このような制度を設ける場合、条件を就業規則に明記しておくことが重要です。病気休暇の取得条件についても併せて記載し、従業員との認識のずれがないようにしておきましょう。
特に規則に明記しておきたい点は4点です。
- 病気休暇が虚偽であった場合、処罰する可能性があること
- 診断書は第一級現代医学医師あるいは公的医療機関のものに限ること
- 2日以内の病気休暇の場合は、薬局等で薬を購入した履歴の提出を必須とすること
- 皆勤手当の支給要件として、病気休暇を取得した日がある期間は対象外とすること
KING OF TIMEおすすめ機能
KING OF TIMEでは病気休暇やその他の休暇をどの従業員が何日取得しているか、一覧で確認いただけます。
一定日数以上取得している場合、色をつけてアラートすることもできます。
使用例:1ヶ月間に病気休暇を取得した日数が2日以上の場合、赤色で表示
上記の例は1ヶ月間ですが、半年、1年の間に病気休暇を何日取得しているか確認することも可能です。こちらは複数月の実績をまとめて確認いただけますので、賞与や昇給昇格の際の指標としてご利用いただくのもおすすめです。
次回は、こちらも日本にはない休暇である「用事休暇」を取り上げます。日本とタイで異なる点や注意点について整理しましたのであわせてご覧ください。