2024.9.9
前回は解雇補償金のルールと支払いが必要なケース、不要なケースについて解説しました。今回は解雇補償金にまつわる過去の判例について取り上げます。
具体的な判例から学ぶことで、もし自社でトラブルが起きた際にどのような点に注意して対応するとよいのかが見えてきます。
日本では複数回の遅刻程度では懲戒解雇の難易度が高いですが、タイの場合は一定の要件を満たすと懲戒解雇の正当性が認められるケースもあります。どのあたりがポイントとなるのか詳しく見ていきましょう。
懲戒解雇が正当なものと認められ、解雇補償金の支払いが不要となったケース
まずは、懲戒解雇が正当と認められ解雇補償金の支払いが不要となったケースをご紹介します。
こちらのケースでは、遅刻を複数回繰り返し、再三の警告にも関わらず改善が見られなかった従業員を懲戒解雇しています。解雇の理由としては就業規則違反である遅刻です。
こちらの従業員は約8ヶ月の間に5回遅刻し、会社はそれに対し口頭注意ではなく警告書を出したうえで3日間の謹慎処分としています。その後も遅刻したため、会社はその遅刻をもって当該従業員を解雇しました。
従業員からの訴えを受け、一審では二重処分の疑義があり会社側は敗訴しました。しかし最高裁では二重処分がなかったと判断され、結果会社側が勝訴しました。
これにより懲戒解雇は正当で、解雇補償金の支払いは不要となりました。
こちらの判例から読み解けるポイントは以下の3点です。
- 懲戒処分の元凶となった遅刻が同一年内で5回も繰り返されたこと
- 口頭だけではなく警告書(証拠が残る資料)での指導を行っていること
- いきなり懲戒解雇ではなく、謹慎処分という経過措置を行ってから解雇に踏み切っていること
また「同一年」というのもキーワードとなります。遅刻が1年に1~2回程度で、それが毎年あり計5回に達し、かつ同様に警告書での指導を行っていたとしても、今回の判例のような重大な懲戒処分は難しいと判断されたでしょう。
一方で突然の解雇ではなく謹慎処分を挟んだことは改善の余地を作ることになるので、処分の手順としては適切であったと考えられます。
懲戒解雇が不当なものとされ、解雇補償金の支払いが命じられたケース
続いて、不当解雇とされ解雇補償金その他の支払いが命じられたケースを見ていきましょう。
こちらのケースでは、発行した警告書が効力を発揮する期間が争点となっています。
状況を時系列で整理すると以下のようになっています。
2006年7月11日 職務放棄により警告書発行
2007年7月26日 欠勤
会社側は、2006年7月の警告書で一度警告したにも関わらず2007年7月に欠勤したことを、2006年7月の警告に対する再違反とみなし解雇を通告しました。
従業員からの訴えを受け裁判となり、従業員側が勝訴しました。
裁判所の見解は以下の通りです。
労働者保護法により警告書の効力は違反日から1年以内と定められている。
そのため2006年7月11日の職務放棄に対する警告書の効力は2007年7月11日までとなる。
よって2007年7月26日の欠勤は、2006年7月11日の警告に対する再違反ではない。
これにより懲戒解雇は不当とされ、解雇補償金その他の支払いが命じられました。
解雇補償金の支払いの要不要、判断されるポイントは?
2つの判例をご紹介しました。どちらも規則違反を理由とした懲戒解雇という点では似たようなケースではあるものの、一方は解雇補償金の支払いが不要、もう一方は支払いを命じられ、明暗を分ける結果となっています。
それぞれの状況によって異なりますが、特に注意したいポイントは以下4点です。
- 解雇通告前に書面により警告し、その時期や回数の明確な証拠があるか
- 改善の指導を行い、また懲戒処分に対する弁明の機会を与えているか
- 解雇の事由が会社に重大な損害を与える程度のものか
- 就業規則に懲戒解雇の該当事由が記載されているか
特に警告書を、いつ、どの違反に対して発行したのか、は重要な判断材料となっています。
警告書の対象となった違反の内容と、その違反がいつ発生したのかについては警告書に明示しておくと同時に、もし必要になった際にはその証拠をすぐに提示できるようにしておきましょう。
さらに注意したいポイントはある?
さらに注意したいポイントは、懲戒解雇の事由を解雇通告時ではなく後から追加、変更することは無効という点です。たとえ後から追加、変更した事由をもって懲戒解雇できる程度のものであったとしても、解雇通告時にその事由が労働者に明示されていなければ普通解雇とされ、解雇補償金その他の支払いが必要です。
過去に類似の判例があり、その際も会社側が敗訴し解雇補償金その他の支払いが命じられています。
KING OF TIMEおすすめ機能
いくつか判例をご紹介し、違反の内容とそれがいつのものか、違反当時はもちろんトラブルが起こった際にすぐに提示できるよう備えておくことが重要とお伝えしました。
KING OF TIME勤怠管理では、過去5年分の勤怠情報を閲覧、出力できるようになっていますので、必要な情報をいつでも取り出していただくことができます。
また、「年別データ」ではいつ誰が遅刻や欠勤をしたか各月のデータを複数月まとめて一覧で確認、出力することもできます。
年別データ活用例:2024年4月から9月の6か月間の欠勤、遅刻の回数(月別、6か月合計)
次回はタイの休暇制度を取り上げます。こちらもタイ独自の制度があり、勘違いしやすい点が多いですのであわせてご覧ください。