2024.8.19
これまで数回にわたって日本とタイの労働法の違いについて取り上げてきましたが、今回のテーマはタイ独自のルールである「解雇補償金」についてです。
解雇はタイの労働問題のなかでも特に関心が高い事項で、労働裁判のうち約9割が解雇絡みと言われています。
年間の労働裁判の数を比べてみると解雇補償金以外の不当解雇等に関するものも含め、タイでは30,086件(2021年統計)、日本では7,254件(2022年統計)となっています。日本と比べてタイの方が労働裁判が多い上にその約9割が解雇絡みですので、とても関心が高いことが伺えます。
トラブルを未然に防ぐためにも解雇、特に解雇補償金のルールや注意点についてしっかり確認しておきましょう。
解雇補償金とは?
まずは解雇補償金のルールについて整理します。
解雇補償金とは、文字通り従業員を解雇する際に支払う補償金のことで、解雇する場合には事前の通知のうえ、従業員に対して支払いをする必要があります。この通知は一給与期間以上前にされなければならないと定められています。
例えば、給与支払日が毎月25日の企業で4月25日付で解雇したい場合は、その一給与期間前の3月25日かそれ以前までに事前通知が必要ということです。
一給与期間未満、または即日での解雇も可能ではありますが、解雇補償金に加えて解雇予告に代わる手当を支払わなければならない点と、トラブルに発展する可能性が非常に高い点に注意しておきましょう。
金額は勤続年数に応じて下限が決められており、金額は以下の表のようになっています。
期間と金額については、補償金を支払うケース、支払わないケースとあわせて就業規則に記載しておくことが一般的ですので、記載の間違いや漏れがないか自社の規則を見直すことをお勧めします。
継続勤務期間 | 解雇補償金 |
---|---|
120日以上1年未満 | 最終賃金の30日分 |
1年以上3年未満 | 最終賃金の90日分 |
3年以上6年未満 | 最終賃金の180日分 |
6年以上10年未満 | 最終賃金の240日分 |
10年以上20年未満 | 最終賃金の300日分 |
20年以上 | 最終賃金の400日分 |
どんな時に支払いが必要?不要?
「解雇」と一口に言ってもその理由によっていくつかに分けて考える必要があります。「普通解雇(会社都合での解雇)」や「懲戒解雇」に加えて、タイでは「定年退職」も解雇とみなされます。
原則の考え方は以下の通りです。
解雇補償金が【必要】
・普通解雇(会社都合での解雇)
・定年退職
解雇補償金が【不要】
・懲戒解雇
・自己都合による退職
・試用期間中(119日以内)の解雇
・特例有期雇用契約(2年以内)の満了
特例有期雇用契約とは以下3つの条件を満たしている契約のことです。
- 期間が2年以内
- 通常の事業、取引ではない特別な事業に関わる業務、または臨時的・季節的な業務
- 上記に該当し解雇補償金の支給をしない旨、雇用契約書等で合意している
特例有期雇用契約にあたる例を挙げると、工期が2年の建設現場に、その建設業務のために2年の有期契約で雇用された場合などです。
「季節的・臨時的」との条件は非常に限定的に解釈されており、こちらに該当するケースは少なくなっています。単に契約期間が2年以内だからといって解雇補償金の支払いが不要となるわけではありませんので注意が必要です。
特に注意が必要なケースって?
特例有期雇用契約に加えてさらに注意が必要なのが、定年退職後に再雇用するケースです。
具体例をもとに確認してみましょう。
例)
規定に基づき55歳で定年退職。この時点での勤続年数をもとに解雇補償金を支払った。
期間を空けずそのまま再雇用し60歳の時に普通解雇した。
このケースでは60歳の解雇時に解雇補償金を支払う必要があるでしょうか?
それとも、55歳時点で一度解雇補償金を支払っているため再度の支払いは不要でしょうか?
正解は「解雇補償金を支払う必要あり」です。
再雇用時の条件がもし定年前と同一だったとしても、新たな雇用契約が発生したことになります。そのため再雇用からの年数、このケースでは5年分(最終賃金の180日分以上)の解雇補償金を支払う必要があります。
次回は解雇補償金にまつわる過去の判例を取り上げます。
そちらもあわせてご覧ください。