タイ労働法と日本労働法の違い⑤

2023.10.26

タイへの勤務命令、それって出張?出向?

日系企業がタイで事業活動を行う際、タイの現地で人を採用するケース、日本側からスタッフを現地へ赴任させて業務を行わせるケースが考えられます。まず出張させてから、その後出向へ切り替える例は多いと思われます。

出張と出向の違いとはなんでしょうか、これらの法解釈や事例を交えながら整理しましょう。

そもそも出張と出向の違いは

出張に対する法律上明確な定義はありませんが、一般的には、業務を行うために通常の勤務場所とは異なる場所に出向くことをいいます。この出向く期間が短いか長いかといった縛りも一切ありません。

出張した先で他の企業の人と業務を一緒にしたとしても、無論雇用関係はないので指揮命令権はありません。そこで一般的に「出張」と「出向」を区別する際の目安ですが、居住か、非居住かで判断するケース、また期間も1年未満かそれ以上かを目安に区別しているケースが比較的と多く見受けられます。

それ以外にも、まずは現地に慣れ、調査する期間として6ヶ月間出張扱いとし、その後出向に切り替えるケースもあります。あくまでも企業独自で判断することになります。

出張と出向で留意しなければならないこと

出張の場合は、海外にいても日本の国内法である労働基準法の拘束を受けることになります。もちろん、日本国内の社会保険や税金等も変わりありません。一方、出向の場合は現地の労働法に拘束され、当然のことながら原則現地の社会保障制度や税金が徴収されることとなります。

つまり、出張の場合、タイ国内で業務に従事していたとしても1日8時間、週40時間の範囲内で労働時間管理、出向の場合、1日8時間、週48時間の労働時間管理を行うことが必要です。

また、日本には変形労働時間やフレックスタイム制度等がありますが、タイにはそのような労働時間制の制度がありません。極論かもしれませんが、日本国内でフレックスタイム制度を運用していた社員をタイに出張させた場合、現地でフレックスタイム制度を社員の判断で運用できるということにもなるのです。出張扱いにするにしても行く前までに、日本国内でどのような就業ルールを使っているのか、そのルールを現地で使う際、整合性が取れるのか確認する必要があります。

当然ですが、一部制約せざるを得ないとなると不利益変更となり、事前に個別同意が求められることは言うまでもありません。

管理上留意しなければならないのは、同一事業所による出張者、出向者がいる場合は二重管理となるため、それぞれ整合性を取りながら管理する必要があります。

出向で業務を行わせるケースとは

日本国内でも出向は頻繁に行われているので、出向についてある程度イメージはお持ちかと思いますが、法律的要件を確認しながら、今一度おさらいしておきましょう。

そもそも出向には2つの考え方があります。社員の身分を現事業会社に置きつつ、他の事業会社の社員や役員等になり、他の事業会社の業務に従事することを「在籍型出向」といいます。一方、出向した後に一定期間経過後、他の事業所へ身分を移すこともできます。これを「移籍型出向」といいます。

タイの現地法人に日本側スタッフを赴任させる場合、在籍型出向なのか、移籍型出向なのかをはっきりと決めておきましょう。また、当然ですが現事業会社にルールがない場合出向はできません。出向の権限とその命令が権限乱用に当たらないこと、就業規則で明記されているのか、対象者は入社時に海外出向が可能な就業ルールに合致しているのか、事前に確認しておきましょう

出向者への配慮すべき点

海外出向の場合、前述の通り現地の労働法(タイであれば労働者保護法)が適用されることとなります。これまで日本の労働基準法とタイの労働者保護法を比較してきました。比較したことをあらためて有利不利で考察してみると、例えば割増賃金についてはタイの労働者保護法が有利となる一方、年次有給休暇は日本の労働基準法が圧倒的に有利です。

タイ労働者保護法では時間外割増は150%。しかも所定外法定内という考えがないので、会社が定めた所定外を超えれば全て150%以上の支給が求められます。

一方、年次有給休暇は日本で10年就業した従業員あれば、6年6ヶ月以降毎年20日付与されます。しかも、消化せず時効にかからないケースであれば最大40日ということになります。タイの労働者保護法では1年で6日付与ということになり、さらに厳密に言えば現地での就業は『0』スタートとなるので、圧倒的に不利ということになります。

従って、実務面で考えると、給与や年次有給休暇については最低でも赴任前の条件を保証する契約で海外出向させるケースが一般的だといえます。

タイで働く出向者向けの就業規則を作るメリットとは

前述のようにタイ出向で働く場合には、有利な面、不利な面があります。そのため、まずはタイ労働者保護法と日本の労働基準法との比較、整理を行うことが肝要であり、その内容で許容範囲を決めて就業規則にまとめる必要があります。

出向者と現地採用スタッフの就業規則を一つにまとめることは可能であり、出向者だけに配慮した有利な労働条件を規定するもできますが、現地スタッフの心情を察すれば決して良いものではありません。

そこで出向者の不安を払拭し、コンプライアンスを担保する形で『出向者就業規則』の制定を検討しましょう。一般的に日本でも正社員用の就業規則、パート・アルバイト用の就業規則を作成するように、タイ国内においても就業規則作成を、雇用種別や就業形態ごとに作成することに何ら違法性はありません。

次回は出向時の社会保障制度を整理します。