タイ労働法と日本労働法の違い④

2023.8.8

タイと日本の有給休暇制度の違いと運用上の留意点

日本とタイの労働法の考え方は、1日や週の労働時間制限などベーシックな部分での共通項は多いものの、運用がかなり違うことに気付かされます。今回はその中でも有給休暇制度に焦点を当てて整理していきましょう。

日本の有給休暇は全ての労働者に与えられる権利である

日本では原則として6ヶ月所定労働日の8割以上労働すると有給休暇が発生します。一般的な発生要件ですと6ヶ月後には10日付与され、その後1年経過すると11日、更にその1年後には12日と増え続け6年6ヶ月時点では20日付与されることになります。

継続勤務年数(年)0.51.52.53.54.55.56.5
付与日数10日11日12日14日16日18日20日

パート・アルバイト等の短時間労働者の有給休暇の考え方

前述の通り、日本の労働法では全ての労働者が半年以上労働し、所定労働日の8割

労働すると有給休暇が発生します。短時間労働者といえども付与の対象でありますが、正社員とは異なり比例付与という考え方で付与されることとなります。

比例付与とは週の労働日数が4日以下かつ週の労働時間30時間未満の方への付与日数の考え方になります。ここで比較的誤解されがちなのは短時間労働者で週30時間以上働く方の取り扱いです。

例えば、1日8時間、週4日勤務される方の半年後の有給休暇は7日ではなく10日付与されるということです。

タイの有給休暇制度のキーワードは社会保険加入者

タイの有給休暇は、日本のように継続勤務年数によって少しずつ増える制度ではなく、1年以上勤務すると6日付与するとタイ労働者保護法で規定されています。もちろん、1年より前倒しで付与することもできますし、6日以上付与することも可能です。

ただ、日本の有給休暇制度と大きく異なるのは、タイの労働者保護法は「社会保険補償保障対象者」を保護する法律趣旨となっているので、補償保障対象外者(短時間労働者等)は保護されない、つまり有給休暇付与の対象者から外れることとなるのです。

週所定労働日数 1年間の所定労働日数 継続勤務年数
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5
付与日数 4日 169~216 7 8 9 10 12 13 14、15
3日 121~168 5 6 6 8 9 10 11
2日 73~120 3 4 4 5 6 6 7
1日 48~72 1 2 2 2 3 3 3

タイの有給休暇の考え方は就業規則が要

日本の労働法と大きく異なる考え方が、タイの有給休暇の買い取り制度です。日本の労働基準法では有給休暇の買い取りを認めておらず、この点が大きく異なります。また、有給休暇の繰越は原則認められているものの、時効消滅という考え方はありません。

そこで企業では就業規則でこの辺りを定めなければならないのです。具体的には、

  1. 1年で有給休暇を消化しきれない場合、残りを買い取る。
  2. 消化しきれなかった有給休暇を翌年まで繰越、そこでも消化しきれなければ残日数を買い取る。

2008年の法改正で退職時は有給休暇買い取り?!

前述のケースは、労働者が有給休暇を取得し、仕事を続けている場合の話でした。では退職時に残っていた有給休暇はどうなのでしょうか。2008年にタイ労働者保護法が改正し、退職時に残っている有給休暇の買い取りが企業に義務付けられたのです。

有給休暇取得後、即退職する場合の取り扱いは

例えば4月1日に有給休暇付与日で、4月30日付けで退職する場合、6日付与しなければならないのでしょうか。日本の労働基準法では基準日に付与された後に、全日消化するか否かは労働者に与えられた権利なので妨げることができません。タイ労働者保護法でも原則この考えではあるものの、退職年に対する付与日の比率計算付与が認められているのです。

退職者に対する比率計算付与とは

退職者に対する比率計算付与とは、会社が付与した有給休暇日数に対し既経過日すでに経過した日数の割合で付与する考え方です。

例えば、タイ労働者保護法で決められた最低日数である年6日の有給休暇を付与したと仮定します。この年6日の有給休暇の付与に対し既経過日の割合で付与するという考え方です。具体的には年6日に対し、1年(12ヶ月)で付与するということは、2ヶ月で1日付与ということになります。従って前述の事例だと4月30日に退職する場合、既経過が1ヶ月なので付与日数は0.5日ということになるのです。

計算式

年6日÷12ヶ月=0.5日/1ヶ月

前述の通り、タイ労働者保護法は柔軟な考え方がある法律で、就業規則で定められている事項については、違法でない限りそちらが尊重されることとなっています。

このアイデアを具現化するには、就業規則に定め、周知させることで実現可能となるのです。

日本でも同様ですが、タイの場合は特に就業規則でどのように定めているのかどうかが重要となります。