タイ労働法と日本労働法の違い⑦

2024.5.3

日本より複雑な休憩、その管理で大丈夫ですか?

これまでも本ブログでお伝えしているように、日系企業がタイで事業活動を行う場合には、タイの労働法が適用されます。その際、日本と大きく異なるにもかかわらず管理があいまいになりがちなのが「休憩」です。日本との違いや注意点について、具体的な事例を交えながら整理していきましょう。

まずは日本の労働基準法における休憩についておさらい

日本の労働基準法に定められている休憩に関する規則はシンプルです。
労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならないとされています。これ以上の規則は定められていないため、たとえば、時間外労働が長引いた場合や、夜勤で16時間勤務の場合でも追加で休憩を取得させる義務はありません。とはいえ夜勤の場合、一般的には途中で仮眠時間を設けているケースが多いでしょう。

タイの労働者保護法における休憩について整理

一方、タイの労働者保護法においては休憩に関する規則が複数存在しています。
一番シンプルなのが、連続して5時間以上労働する場合に1時間以上の休憩を取得させなければならないというものです。一見日本と同じような規則に見えますが、管理の際は注意が必要です。

つづいて、原則8時間(変形で9時間とした場合はその時間)を超えて労務に従事し2時間以上の時間外労働を行う場合、20分以上の休憩を取得させなければならないという規則もあります。こちらは上記の1時間以上の休憩のほかに20分の休憩が取得できていれば、さらに2時間以上(合計4時間以上)の時間外労働を行ったとしても追加で休憩取得の必要はありません。

また、休憩が2時間を超えた場合その時間は労働時間に加算しなければならないという規則もあります。イメージがしづらいかもしれませんが、たとえば接客業などでお客さんがいない時間を休憩とするケースで、その時間が長引いてしまった場合などが該当します。

日本とタイで違う点は?

上記で述べたように、休憩の管理に対して、日本とタイの違いは大きく3つあります。
具体例をもとに詳しく見ていきましょう。

1つ目が、タイでは「連続」の労働が休憩の要件となっている点です。日本では1日の「総労働時間」を要件としているため、たとえば午前中に4時間勤務し一旦退勤した後に再度出勤し、4時間勤務した場合には少なくとも45分の休憩を取得させる必要があります。

一方タイでは「連続」の労働が要件となっています。たとえば上記のような接客業で11時~14時まで就業し、途中で17時~20時まで中抜けした場合、中抜け時間前の労働時間が連続5時間以上とはならないため休憩とはなりません。また休憩ではないので、中抜け時の2時間超えの部分は労働時間にカウントする必要はありません。
上記の例のように、勤務と勤務の間が空いていれば法律上は休憩を取得させなくてもよいことになっています。ただ、実際に取り入れるとなると1日のなかで複数回出退勤することとなり管理が煩雑になるため現実的ではないでしょう。
一般的に1日のスケジュールとして取り入れられているケースを挙げてみます。
製造業の場合、休憩を複数回に分けている企業が多いようです。

休憩① 10:00~10:10(10分)
休憩② 12:00~12:40(40分)
休憩③ 15:00~15:10(10分)

上記のようにトータルで60分としています。
事前に従業員との間で合意が取れていればこのような取得方法も可能です。
非製造業の場合は、日本での一般的な勤務時間と同じく12:00~13:00に昼食時間として、まとめて60分休憩としている企業が多いようです。

2つ目は、2時間以上の時間外労働を行う場合、20分以上の休憩を取得させなければならないという規則です。これに関する注意点としては、時間外労働を行う「前」に休憩を取得させる必要があるということです。本来は1時間程度で切り上げる予定だった時間外労働が思いがけず長引いてしまうというケースも考えられますので、一旦所定労働時間が終了し、時間外労働に切り替わるタイミングで20分の休憩時間を設けるなどあらかじめスケジュールに組み込んでおくのもよいかもしれません。

3つ目は、休憩が2時間を超えた場合その時間は労働時間に加算しなければならないという規則です。先述した、接客業などでお客さんがいない時間を休憩とするケースなどが想定されます。

例)
シフト:9:00~18:00(休憩12:00~13:00)のケース
12時から休憩に入り13時になったが、お客さんがいなかったため引き続き15時まで休憩を取らせた。

このケースの場合、休憩は12時から15時の計3時間となります。そのうち2時間は休憩時間として計上して問題ありませんが、1時間分は労働時間として加算し賃金を支払わなければなりません。

就業規則にはどう定めておけばいいの?

これまで解説してきたように、日本とタイでは休憩に関する考え方が異なります。また、タイの労働法は慣習法の考え方が強く、日本の労働基準法のように詳細なルールが定められているわけではありません。法律で明文化されていない部分については、判例等でその都度確認をしていく必要があります。トラブルを未然に防ぐためにも就業規則を細かく定め、従業員に周知しておくことが重要です。