タイ労働法と日本労働法の違い②

2023.6.19

~タイの労働時間と日本の労働時間~

労働基準法では労働時間について、原則として1日8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけないことになっています。

では、タイの労働者保護法ではどのようになっているのか、日本の労働基準法で定められている労働時間と比較しながら整理していきましょう。

日本の労働時間の制度を整理してみると

原則は1日8時間、1週間40時間となっております。しかし、労働基準法では労働環境の実態に合うよう規定があり、1ヶ月や1年の変形労働時間制、労働者の時間裁量があるフレックス制、専門業務型等の裁量労働制、事業場外のみなし労働制があります。

これらの制度は、労働基準法において就業規則への定めや、労使協定を結ぶことで、1日と1週間の原則に囚われない働き方が認められています。

タイ労働法の労働時間の考え方

タイの労働時間制はどのようなものでしょうか。タイの労働者保護法23条に、労働時間の規定があり1日8時間、1週間48時間を超えてはならないとなっております。また、日本の労働基準法で定められているような、変形労働時間制やフレックス等はありません。

法律上では原理原則の労働時間制以外は存在しないのです。

タイは週48時間以内なら

後段で詳述しますが、タイも当然法律で定めた労働時間を超えることができず、超えて労働させたら労働時間に対する割増賃金が必要となります。

1日8時間で週6日勤務なら週48時間まで、働かせることができることは理解できるのですが、週5日勤務(週休2日制の場合)だと、40時間までしか働かせることしかできないのでしょうか。

この場合、タイ労働者保護法23条1項で、週48時間を超えなければ、1日の労働時間を不足時間まで働かせることが認められているのです。例えば、1日9時間の週5日勤務で週45時間まで働かせることは認められ、その際、8時間を超えた1時間については割増賃金の支払いは不要なのです。

タイでは変形労働時間制が法律として制定されていないものの、実運用では小幅な変形労働時間制のような対策を講じることができることになっています。

週48時間以内の設定なら1日は何時間でもOK?

週48時間以内のシフトを定めるなら、1日10時間、11時間の労働時間設定も可能なのでしょうか。これはNGです。あくまで1日は8時間を超えても9時間以内で設定しなければならないとタイの労働裁判の判例で示されております。

日本の労基法にある時間外労働の36協定はタイにもあるのか

日本の労働基準法では、原則の1日8時間、1週間40時間を超えて労働させる場合、36協定を労使で結び、労働基準監督署へ届出なければなりません。この36協定を労働基準監督署へ届出ることで、法定時間を超えても刑事罰を受けない免罰規定となっています。

では、タイの時間外労働の取り決めはどうなのか。タイ労働者保護法では、36協定のようなルールはありません。一方で時間外労働については、労使の個別合意が原則となります。例えば、前述のような週45時間だが、1日9時間労働を行う場合にも、割増賃金は不要となるものの、1日8時間を超えるので個別同意が必要となることに留意しなければなりません。

所定外労働と法定外労働

残業と一言で言っても、日本の労働法制では法定労働時間を超えない『所定外労働』なのか法定労働時間を超える『法定外労働』なのか、によって法律上の取り扱いが異なります。

例えば、労働基準法では1日8時間(法定外労働)を超えて労働させた場合(法定外労働)、125%の割増賃金を支払わなければなりません。しかし、企業によっては1日の労働時間を8時間ではなく、7時間30分や7時間45分といったルールもあるでしょう。

この8時間以下で労働時間を設定した場合(所定労働時間)、8時間までの労働時間(残業時間)を所定外労働といい100%またはそれ以上で計算した時間外手当を支払わなければなりません。

タイの労働法では所定外労働という概念がない

タイの時間外労働に対する割増賃金率は、150%であり、日本の割増賃金より25%高くなっております。日本の労働法では、『所定外労働』か『法定外労働』かどちらになるかで割増賃金率は変わるのですが、タイは『所定外、法定内労働』という概念がないので、企業が設定した所定労働時間を超えた時点で150%の割増賃金が発生します。

従ってタイで所定労働時間の定め方は、日本の所定労働時間と同様にするか否かは注意して検討しましょう。

次回は休憩、休日について考察していきます。