2025.11.6
タイで働く日本人がしばしば感じるのが、「どうしてタイ人は昼休みにあれほど楽しそうに過ごすのか?」という疑問です。
日本では昼食は単なる休憩時間で空腹を満たすもの…という感じであり、部下や同僚とのコミュニケーションは主に飲み会で行うイメージが強いですが、タイではその文化は異なるようです。
タイにおいて昼食は、ただの食事の時間ではなく、「人間関係を築くための重要な社交の場」でもあります。
仕事の報連相や連携がスムーズになる背景には、こうした昼食のコミュニケーションが大きく影響しています。
タイで働くなら知っておきたい、昼食時間の大切さ

タイ人にとって昼食が「飲み会に相当する存在」である理由
日本では部下との距離を縮めるために「飲みニケーション」がよく活用されますが、タイでは「飲み会」はあまり職場文化の中心ではありません。
その理由としては、夜の時間は完全なプライベートの時間であり、仕事とプライベートをきっちり分ける傾向が強いタイ人にとっては、出来るだけ夜は家族との時間や自分の為に時間を掴隊という傾向が強いようです。
その代わりに仕事の途中にある「昼食」の時間が、仕事以外の話題を通じて関係を深める大切な時間になっています。
タイ人が昼食中の話題で心地よさを感じるポイントとしては、以下のような傾向があると感じます。
家族や子どもの話:
タイ人は家族を非常に大切にする文化があり、プライベートな話題は安心感をもたらします。
また、お互いどんな背景で育ったのかなどの人となりを知りたいと思うようで、家族や子供の話は頻繁になされます。
趣味や休日の過ごし方: 先の述べた家族と子供の話題と同様に、人となりを知る上で、どんなことに興味があるのかは、お互いを知る上でとても大切です。
食事に関する話
三大欲求の一つである「食欲」に関する事なので、食に関するアンテナ精度は高いです。
おすすめのレストラン、タイ料理を含めた各国料理の話題など、誰でも参加しやすい話題です。
実際に、「〇〇の店の○○は安くて美味しい!」など、よく話されていますね。
明るい話、笑い話、面白い失敗談:
厳しい仕事の話や批判的な内容は昼食には避け、和やかな雰囲気を大切にします。
タイに来て驚いたこと、失敗談などは、聞いている側も興味を示します。
私の場合は、タイの地方で暮らしたことがあるので、その話をすると、特に20代前半の社員は自分自身が経験をしたことがないので、興味深いようです。
こうした話題が多いことで、タイ人は昼食の時間を「楽しい交流の場」として受け止めています。
昼食時間がもたらす「もうひとつの役割」~本音が漏れ出る場~
昼食時の雑談は、普段の職場では聞けない本音を引き出すことがよくあります。
オフィシャルな会議や仕事の場では言いにくいことも、リラックスした空気の中では話しやすくなるのです。
たとえば、ある日系企業で普段は口数が少ないスタッフが昼食の席で「現状の工程は負担が大きすぎる」といった改善の声を打ち明けたことがあります。
上司である日本人が思っている仕事の工程と現場では違っていたようで、その後、具体的な改善がなされたケースなどもあります。
このように昼食は、表面的なコミュニケーションを超えた重要な情報収集の時間にもなります。

タイ人スタッフ同士の絆は「食卓」で育まれる
タイでは一人で食事をすることは寂しいこととされ、みんなで食卓を囲む習慣があります。
ですので、休日に大家族で食事をしている姿をよく見かけたりもしますね。
私がタイに来た頃、常に誰かがいるので「一人になりたい」、「時には1人で食事がしたい」と言ったところ、精神が病んでいると思われ、心底心配されました。
最近では、個人が尊重されるようになり、1人で食事をすることも個性としてとらえられるようになりましたが、タイ人社会では、一人で食べていると「人との距離を置いている」「怖い人」「変わっている人」という印象を持たれることもあります。
外国人である日本人管理職がタイ人スタッフと昼食を共にすることは、職場の壁をなくし信頼関係を築くうえでとても効果的です。
「YES」に隠された本音を昼食で読み解く
前回、タイ人の「YES」には文化的な配慮が深く根付いているというお話をしました。
ブログ:タイ人スタッフはなぜ「YES」と言うのか(https://h-t.co.th/jp/blog/2025-08-29/)
こうした「YES」の裏にある本音は、昼食のリラックスした雰囲気の中で雑談を重ねることで少しずつ見えてきます。
タイ人スタッフが本当に困っていることや、伝えたいことを理解するためには、昼食時の自然な会話が不可欠なのです。
昼食時に避けるべき話題と心地よい会話のポイント

避けるべき話題
仕事の厳しい批判や直接的な指摘:
タイの職場文化は「和」を重んじ、対立や衝突を避ける傾向があります。
特に昼食というリラックスした場において、厳しい批判や指摘は相手を不快にさせるだけでなく、恥をかかせることにもなりかねません。
こうした言動はタイ人スタッフのモチベーションを下げ、上司との信頼関係を損ねるリスクがあります。
また、面と向かって問題を指摘されることを嫌う文化的背景があるため、非公式な場である食事の席では特に注意が必要です。
内容によっては恨まれる可能性すらあります。
政治や宗教などセンシティブなテーマ:
どこの国でも言えることですが、政治や宗教は個人の価値観や信念に深く根ざしているため、意見の違いが感情的な対立や不和を招きやすい話題です。
それはタイ人同士でも同様です。
タイは多様な民族や宗教が混在する国であり、こうしたテーマを避けることで職場の調和を保つことができます。
昼食の場でこうした話題を持ち出すと、相手に心理的負担を与え、交流の場がぎこちなくなる恐れがあります。
個人攻撃や否定的なコメント:
タイ文化では、相手を尊重し調和を保つことが非常に重視されます。
大勢の前で、指摘されることは恥とされ嫌がります。
個人攻撃や否定的だと取られる発言は相手のメンツを傷つけ、対人関係の亀裂を生みます。
昼食時の和やかな雰囲気を壊し、今後のコミュニケーションに悪影響を及ぼすため、特に控えるべきです。
否定的とも受け取られる可能性がある指摘が必要な場合は、仕事の時間内に個別で行うなどの配慮をもって伝えることが望まれます。
心地よい会話のポイント
相手の話をよく聞き、共感やリアクションを大切にする:
タイ人に限らず人は「聞いてもらえること」に強い安心感を抱きます。
自分の話に共感してもらうことで心理的な距離が縮まり、信頼関係が深まります。
話の途中でうなずいたり、相槌を打ったりするリアクションも、相手に「受け入れられている」という実感を与え、会話を活発にします。
これにより、タイ人スタッフはよりオープンに気持ちを話してくれるようになります。
軽い雑談を中心に、和やかな雰囲気を意識する:
昼食はあくまで休息の時間であり、重い話やストレスになる話題は場の雰囲気を悪くしてしまいます。
楽しい会話や笑いがあることで、心身ともにリラックスでき、ポジティブな感情が生まれます。
こうした環境は職場でのストレス軽減やチームの一体感を促進し、結果として生産性の向上にも寄与します。
相手のプライベートな話題に興味を示し、親しみやすさを感じさせる:
日本ではプライベートな話題は避けられがちですが、タイ人は家族や個人的なつながりを非常に大切にします。
家族の話題や趣味、休日の過ごし方など、プライベートな話に関心を示すことで、「仕事以外の面でも相手に関心を持っている」というメッセージが伝わります。
これにより、職場内での壁が取り払われ、より深い人間関係が築けます。
親しみやすい雰囲気は、業務上の協力やコミュニケーションの円滑化にもつながります。
これらの理由から、昼食時の話題選びや話し方に配慮することが、タイ人スタッフとの良好な関係構築に不可欠だと言えます。
文化的な背景を理解し、心地よいコミュニケーションを心がけることで、信頼と協力が自然と生まれると感じます。

まとめ―タイ人にとっての昼食は「心地よいコミュニケーション」を通じ信頼を構築する場所
タイでの部下とのコミュニケーションは、日本の「飲み会」ほど形式的で重くありません。その代わりに昼食が重要な交流の時間として機能しています。
心地よい話題で昼食を共にすることは、お互いの人となりを知ることで、職場の信頼関係を築き、業務を円滑に進めるための最良の手段のひとつです。
タイ人スタッフとの距離を縮めたい管理職の方は、ぜひ昼食の時間を利用し会話内容や雰囲気づくりに注力してみてください。
執筆者:前田千文

2001年1月、TJ Prannnarai Recruitment創業。2015年より泰日経済技術振興協会にて労働法の講師を拝命。2025年7月、アベノ印刷の2代目社長に就任。